バイブル。
狂音文奏楽『文豪メランコリー』
私のバイブルとなりそうな作品。
文メラが私のバイブルとなるのは、これまで認めてもらえなかったような気がしていた「人は孤独であり人生は無意味である」ということをちゃんと認めた上で「自分らしく世界に飛び込んで自由に生きろ」と歌ってくれたからだと思う。
「自分らしく世界に飛び込もう」は色んな作品が教えてくれた。
ただ、人生の孤独と無意味を明確に認めてくれたのは文メラが初めてだった。
当たり前っちゃ当たり前なのだが、私と同じ今を生きる大人たちは、私のような10代の若者にはなかなか孤独や無意味を説いてはくれない。
目を見て言われる言葉は、
「人生の価値を探しなさい」「孤独になるな」ばかりで、
それは、どこへ行ってものらりくらりと一匹狼で生きてきたひとり遊びの上手な私を案じる温かい気持ちなのだろうとは感じているし、私の周りには若者を大事にしたいちゃんとした大人がたくさんいるということもわかっている。
けれど、私の人生観はそこにはなかった。
人はひとりで生まれひとりで死にゆく。
人はそもそも、人生はそもそも、孤独なものだ。
そしてその孤独はひとつ、唯一無二とありのままの証であり、無意味だからこそ人生とは愉快で、最後は水の泡となる命だと定められていることは終わりがあるという救いであり、自由の恩人なのだ。
12歳くらいの頃に形作られ、今ではもうかなり深く根を張ってしまった、私の人生観である。
だが、周りの大人は口を酸っぱくして言う。
「自分に価値をつくれ」「人生に意味を持て」
「孤独になるな」「価値のある人間になれ」
父に「まだ孤独になるには早いよ」と言われたのが鮮明に記憶に残っている。
個人主義の学校でのんびりと一匹狼を謳歌していた15歳の時だった。
周りの大人のそういう気持ちを受け取るたびに、私は、孤独が苦ではなく無意味を呑んで虚無の奥に甘みさえ感じていることは口にできなくなり、悶々と黙りこくる日々。
家族共有のiPadでYouTubeの記録から母に精神疾患を疑われているのを感じているし、幼い頃から両親に「鬱病になりやすい気質だから気をつけなさい」と言われ続けてきた。
学校で行われる「孤独感対策」のような作文課題や心理講座で当たり前のように語られる孤独や無意味の苦痛は、そして、その対策方法として勝手に自分の手を繋げられるのは、私からすれば自由を奪われているような心地だった。
孤独と無意味があるから自由で、唯一無二にありのままでいられるのに。
そう口にしてしまうと、まるで、改めて私の精神の異常を自ら伝えることになるような気さえしていた。
文メラの文豪たちが歌う言葉が嬉しかった。
孤独だよ、無意味だよ、だけど、自由なのだから。
そうやって言葉で明確に認めてくれたことが本当に嬉しかった。
パンフレットが手元に来た九月から、何度も何度も開いては歌詞を読んでいる。
そうして私は目を瞑り、あの世界の鮮やかさを思い出しては、人生という直線の中で今のこの一瞬は何色の点として光っているのだろうと思いを馳せる。
きっと鮮やかに彩られているだろうと笑みが浮かぶ。
文メラと出会ったことで、私は心強さを得た。
私にも色がある。
私らしく世界に飛び込んで、足掻いて、歌って、そして楽しんで生きていれば、私にも鮮やかな色がつく。
こういうもののことを、出会えたことで一つの点の根に力強さを得られるもののことを、バイブルと呼ぶのかもしれない。
もはや盲目的になりつつあるような気もしてくるが、もし文メラを先に知っていても、私はきっとその先でりゅうこさんという脚本家に惚れていた。
そんな確信を勝手に抱いてしまうくらい、文メラは私に心強さをくれる。
惚れているといっても、雲の上の恋でも火の中の愛でもない、子どもの私に安心感をくれる大人として慕っているような感じで、芥川龍之介の夏目漱石に対する手紙を読んでいる時にふとりゅうこさんを思い出したから、あの師弟に似たような慕い方をしているのかもしれない。
私のような者から慕われても困るかもしれませんが、私はきっととてもあなたを慕っていて、あなたに「それでいい」と言われたような気持ちになると、どうしようもなく安心するのです。
文豪メランコリー。
私のバイブルとなりそうな作品。
その歌詞を口ずさんで彼らを思い浮かべると、自分の歩いてきた足跡が緩やかに色づいていく気がする。
雑踏を通り過ぎるたくさんの人の足跡が鮮やかなペンキの残像に感じられては楽しくなってくる。
私と似たような考えを口にしつつ、ただ、そこから飛び出てゆきなさいと歌う。
とりあえず走って飛び出してみて迷ったとしても、何となく、その歌詞のひとフレーズさえ覚えていたら、少し自分を褒めてやれる気がする。
その歌詞のひとフレーズを歌ったら、もっと楽しく世界を舞台に走っていきたくなる気がする。
走って転けて誰かには笑われたとしても、彼らは共に歌ってくれる気がする。
私の、バイブル。文豪メランコリー。
またいつか彼らに出会えますように。
彼らに胸を張って自分の名前を叫べる私でいられますように。